INTEGRATED REPORT 2024
CHAPTER 3
Strategy of TC Transformation
menu

INTEGRATED REPORT 2024

Introduction OPEN
CHAPTER 1 CEO Message OPEN
CHAPTER 2 Overview OPEN
CHAPTER 3 Strategy of TC Transformation OPEN
CHAPTER 4 Sustainability Management OPEN
CHAPTER 5 Engagement OPEN
CHAPTER 6 Governance OPEN
CHAPTER 7 Segment Information OPEN
CHAPTER 8 Risk Management OPEN
CHAPTER 9 Data Section OPEN

確かな実行力と成長ストーリーを推進し、株式市場における当社の企業価値評価を着実に高めていきます。

資本コストや株価を意識した経営

平崎 達也
取締役 専務執行役員 経営企画部門長 兼 経理部門長

2023年度の当期純利益は721億円と4年ぶりに過去最高益を達成し、「中期経営計画2027」(以下、中計)の1年目として順調なスタートを切ることができました。2027年度の目標値である当期純利益1,000億円に向けて、着実に増益を継続していきたいと考えています。一方で、2021年度から資本市場の評価である当社のPBRが1倍を下回っている状況は課題として認識しています。

このような状況下、中計において「純利益1,000億円、ROE10%を達成し、PBR1倍以上に」とスローガンを掲げ、中計の基本方針や各施策をもとに、2023年12月に「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」について方針を打ち出しました。

なお、株主資本コストは当社による算定結果と資本市場との対話をもとに、中計公表時に10%であるとの認識を発信しました。ROE10%超(2023年度実績:8.8%)の達成と、株主資本コストの低減を進めることで正のエクイティ・スプレッドを形成し、PBR1倍以上を目指していきます。ROEの向上と株主資本コストの低減について具体的な施策と考えを述べていきます。

稼ぐ力へのこだわりとPXによる高効率経営の追求

2009年の合併以降の利益成長は、国内リース事業への依存から脱却を図るため、M&Aも活用しながら積極的な成長投資に伴う資産規模の拡大によって実現し、ROE10%以上・PBR1倍以上が継続するなど株主・投資家の皆さまから評価を得てきました。しかし、ROEが10%を下回るにつれてPBRも1倍を下回り、また現在の当社の総資産は約6.7兆円、有利子負債は約5兆円(2024年6月末時点)に近づき、ROEが10%を下回る状況が続くなど、さらなる成長に向けてはボリュームありきの足し算のみの経営では成長のハードルが高くなっていくものと考えています。

そうした観点から、当社が将来にわたって持続的な成長を果たしていくための重要な経営戦略として「資産効率の向上」を掲げています。既存事業のバリューアップや事業投資の資産回転に加え、各事業の中身を精査し、低効率で成長が見込みづらい事業からはEXITし、株主・投資家の皆さまが求める収益率の実現に期待できる事業に経営資源を投入することで資産効率の向上を図り、ROEの分子である当期純利益の成長へとつなげていく考えです。したがって、中計の財務目標の実現に向け、稼ぐ力の高い成長性のある資産に変えていくというポートフォリオ・トランスフォーメーション(PX)は非常に重要な取り組みであり、各事業分野においても積極的に進めている段階です。中計初年度(2023年度)におけるPXの代表的な事例として、オリエントコーポレーション(オリコ)との合弁会社である2社(オリコオートリースおよびオリコビジネスリース)について持株比率の見直しを実施し、当社の連結子会社から持分法適用関連会社へ変更しました。社内外において議論を進めていく中、両合弁会社は順調に資産規模を拡大し業績は安定しているものの、オリコの連結子会社として経営戦略を推進していくことが最も企業価値向上に資するとの判断に至り実行した事例です。投下資金の回収と持分法適用関連会社化により、当社のROA改善にもつながっています。今後もこうした事業の見直しを進めていく方針ですが、単にEXITを推進するだけでは1株当たり純利益(EPS)の低下につながりますので、PXにより捻出した資金を新たな成長分野へ投資し、さらなるEPS拡大を実現していくことで資本市場の評価を高めていくことが肝要です。例えばNTTグループとのデータセンター事業など、当社の強みであるパートナーシップ戦略に沿う楽しみな案件も数多く出てきている状況です。高い成長性が見込まれ、当社の既存事業とのシナジーも期待できるようなポテンシャルのある事業領域に思い切って成長投資できるようPXを進めていきます。

また、ROEの分母である自己資本の水準見直しも、ROE改善に寄与する要素の一つではありますが、財務の健全性を維持し、資金調達の安定性を図るためには、現状の自己資本の水準はリスク量に対して適正であると考えております。

株主資本コストの低減

株主資本コストを低減していくには、業績の安定性や予見可能性を高めることで株主・投資家の皆さまにとってサプライズとなるような事象を起こさないことが必要と考えています。前中期経営計画(2020~2022年度。以下、前中計)において、新型コロナウイルス感染症の拡大やロシアによるウクライナ侵攻など、テールリスクの顕在化により多額の損失計上を余儀なくされたことが株価に一定の影響を与えたものと考えています。そして、皆さまが当社に投資したいと思っていただけるように実績を積み重ねながら、高い成長期待を醸成していくことにも努める必要があります。

そのためのキーとなる要素として、(1)総合的なリスクマネジメントの高度化、(2)成長期待の醸成、(3)IR活動の強化が挙げられると考えており、これらを推進することで株主資本コストの低減を図っていきます。

(1)総合的なリスクマネジメントの高度化
資本・リスク・リターンの三位一体のコントロールを進め、財務健全性の維持、資本効率の向上、リスク・リターンの向上により利益の最大化の実現を目指していきます

リスクマネジメントのミッションは、取るべきリスクに果敢に挑み、価値創出と成長を支えることと捉えています。一方で前中計における多額の損失計上、ROEの現状を踏まえ、リスクマネジメントの高度化は中計における重要な施策と捉えています。具体的には、資本利用率のガイドライン管理、資本コストを意識したリスク・リターンの経営管理、投資マネジメントフレームワークの定着と高度化、カントリーリスク・グローバルリスクへの対応の4つの取り組みを進めています。

資本利用率のガイドライン管理は、経済資本に対するリスク量の比率である資本利用率を測定し、これにガイドライン水準を設け、一定の資本吸収バッファー内にリスク量を収める運営を行っています。当社はこの資本利用率を適切にコントロールすることで、財務規律の維持を図りつつ、取るべきリスクに果敢に挑み、成長投資を実行していきます。

資本コストを意識したリスク・リターンの経営管理に向け、ROICスプレッドの活用の高度化を推進します。事業やリスク特性を反映した事業分野別のリスク・リターン指標として、ROICスプレッド(投下資本利益率(ROIC)–加重平均資本コスト(WACC))の定期的なモニタリングを行っていますが、今後はモニタリングに留まらず、ポートフォリオの入れ替えや事業評価などにおいて、リスク・リターンを加味した資本コストの概念を取り入れることは必須と考えており、導入に向けた準備を進めています。

投資マネジメントフレームワークは、投資の採択や途上管理のプロセスにおいて、リスクに対応した資本コスト考慮後の収益性(定量基準)や当社戦略との整合性(定性基準)などを確認するとともに、投資案件に共通して撤退を判断すべき基準(共通撤退基準)や案件ごとに撤退トリガーとなる数値(個別撤退項目)も設け、適切なポートフォリオマネジメントの運用を行っています。こうした運用を進めていく上で、営業現場にとっては耳の痛い意見も多々出てきますが、規律あるガバナンス機能を働かせるため、さまざまなリスクシナリオを想定してあらゆる角度から妥当性の検証を行う体制を整えていくことが肝要です。関係者が活発な議論を交わす場を提供し、制度の定着と高度化を図っていきたいと考えています。

最後にカントリーリスク・グローバルリスクへの対応力の強化です。航空機リース事業を中心に、ポートフォリオに占めるグローバル資産比率は高まっています。地域の政治・社会・経済など環境変化に対するモニタリングを強化するとともに、国別エクスポージャーのガイドライン化、投融資対象不適格国の指定などを進めています。

(2)成長期待の醸成
価値創造の布石となる成長投資による当社の挑戦を進め、資本市場に対し成長期待の醸成を進めていきます

リスクマネジメントの高度化とともに、中長期的な価値創造の布石となる「成長投資」による当社の挑戦も着実に進めていきたいと考えています。当社が合併により誕生した2009年度、時価総額は約650億円(2009年4月末ベース)でしたが、現在は約8,000億円規模にまで成長しています。これは失敗を恐れず、M&Aも活用した積極的な投資による事業領域の拡大によって成長ドライバーを打ち立て、資本市場の期待に応えてきたからこそ実現できたものであり、株主資本コスト低減において最も重要なファクターであると考えています。

2023年度の主な成長投資として、航空機リース子会社ACGの資産拡大を図るための航空機取得、そして米国データセンターや海外の再生可能エネルギーなど新たな成長事業への投資を実行しましたが、株主・投資家の皆さまの期待には十分応えられていないと考えています。成長投資による利益成長イメージを認識していただけるよう、全社一丸となってビジネスチャンスを獲得していきます。

(3)IR活動の強化
IR活動において得られた意見をもとに、情報開示の拡充や経営課題の改善を実現していきます

株主資本コストの低減において、「IR活動の強化」は非常に重要な要素です。情報開示の拡充はもちろんのこと、株主・投資家の皆さまとの対話を積極的に実施し、さまざまなご意見・ご要望に対してマネジメントが真摯に向き合い、一つひとつ改善していくプロセスを推進していきます。そして皆さまが当社に抱いている成長への期待値を高めることや、業績のボラティリティに対する懸念の払拭など、資本市場との丁寧なコミュニケーションを推進することで着実に信頼を得ていきたいと考えています。

過去1年を振り返れば、当社ホームページにおける「DATA BOOK」の公開や、四半期決算における事業分野別純利益計画の進捗状況に関する開示を新たに開始しました。また、株主資本コストの決定や配当政策の見直しにおいても、国内外において株主・投資家の皆さまとの多くの対話の機会を設けた結果であり、当社の「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」の開示については非常に高いご評価をいただくことができました。今後も皆さまに「変化に対する期待」を感じていただけるよう、開示拡充や経営課題の改善に前向きに取り組んでいきます。

バランスシート・マネジメント

財務健全性の維持とROE10%超の実現を図るため、適切なバランスシート・マネジメントを推進しています。中計最終年度の2027年度において、総資産が約7兆円、自己資本比率14%程度というバランスシートの内訳を前提にROE10%の達成を計画していますが、足元(2024年6月末時点)においては、既に総資産が6.7兆円、自己資本比率が14%水準となっている状況です。これは、米ドル建て資産を多く抱えていることから、為替が円安に振れたことでバランスシートが増加したことが主因です。日米金利差などの状況を勘案すると、現状の円安水準は徐々に緩和されていくものと考えており、中計で定めた資産規模や適正と考える自己資本比率の方針に変更はありません。

株主還元

株主還元については「長期的かつ安定的に利益還元を行うこと」を基本方針とし、利益成長による増配を目指し、配当性向35%程度を維持していきます。また、これまでも利益成長にあわせる形で減配することなく配当を実施していますが、株主・投資家の皆さまの意見をもとに、継続的な増配を目指すという方針を明文化するため、中計の配当政策において、新たに原則として減配を行わない「累進配当」を追加しました。2024年度においては着実な利益成長を達成することで、前年度比6円増配となる1株当たり58円の配当を計画しています。

金利変動リスク

国内ではマイナス金利政策の解除、2024年7月には政策金利0.25%の利上げが決定するなど、「金利ある世界」に回帰した円金利の動向にも注視していく必要があります。当社は四半期ごとに開催しているALM委員会において、直近の動向を踏まえた円金利の予測シナリオや資金原価の見通しの共有、ヘッジ比率など資金調達方針を決定し、金融市場の変化に機動的に対応できるような体制を取っています。2024年度計画は、市場金利は7月および12月に0.25%ずつ、計2回の利上げがあるとの前提のもと策定しています。円金利の上昇に伴い短期的に資金原価の増加という影響を受けるものの、上昇に備えてヘッジ比率も相応の水準を維持しています。

ビジネス面においては、従前とは異なる事業環境であることを全従業員が理解して営業活動にあたるよう、「金利ある世界」に順応するための対応力強化を推進しています。足元の実績を勘案しても十分対応できているものと評価していますが、中期的にしっかり金利収益を獲得していくのはもちろんのこと、金融機能のみで競うのではなく、付加価値となる「サービス」を提供して差別化を図ることによる収益力向上も進めています。

TCXの実現に向けて

TCXの実現に向けては、PXおよびPX実現のための基盤であるHRX、GX、DXそれぞれの取り組みが欠かせない要素となっています。特にHRXにおいては、実際にTCXの実行を担う人材と組織の変革が重要であると考えており、まずは従業員エンゲージメント調査なども活用しながら、あるべき姿と現状のギャップの把握から開始しています。

具体的には、「企業と従業員は対等な立場である」という前提に立って、会社は従業員に何を求めるのか、そのために会社として何を提供・支援するのかを改めて考え、課題の共有と今後の取り組みについてさまざまな役職員と意見交換を実施しています。企業風土の醸成や人財の育成には時間がかかり、すぐに結果として表れるものではありませんので、中長期的なタームで腰を据えて取り組んでいかなければならないと考えています。そして、事業戦略と人材・組織戦略は連動する必要があります。人材・組織戦略の強化が「従業員エンゲージメント向上」につながり、さらに専門性を持つ従業員がそれぞれの業務においてモチベーション高く活躍することで、「稼ぐ力」ひいては「企業価値向上」につながってくるものと考えています。

「中期経営計画2027」の目標達成とさらなる成長に向けた施策の推進・実行

中計の達成に向けたロードマップとして、事業分野別に利益目標を開示し、達成に向けてどのようなことに取り組むのかという事業戦略を詳細に開示しました。国内・海外において面談を行った多くの株主・投資家の皆さまからも理解が深まるとご評価をいただいており、当社が向かうべき道筋や経営のコンセプトを市場に対して明瞭にすることができたのではないかと感じています。資本市場の皆さまへ当社の目指すべき方向性を発信しましたので、あとはさらなる成長を成し遂げるためのドライバーとなる新たな事業の柱を打ち立てること、そしてPXの推進・実行に一層注力していきます。これをいかに実行するかはマネジメントの責任だと思っています。

中計の最終年度である2027年度において、財務目標は当期純利益が1,000億円、ROAは1.4%、ROEは10%を掲げています。中計の達成に向けた課題は前述の通り明白ですから、今後は一つひとつを着実に実行していくのみであり、財務目標のいずれも十分に達成できると思っています。

役職員が一丸となって当社の創出価値を最大化し、掲げた目標の達成を目指し、そして当社の持続的成長を株主・投資家の皆さまに応援していただけるように、引き続き努力していきます。今後とも変わらぬご支援をよろしくお願いします。

投資家情報 トップ

ページトップへ戻る