Engagement
Interactive
Dialog
機関投資家 × CEO対談
投資家の皆さまとの双方向の対話によるエンゲージメントを通じて
ともに東京センチュリーの未来を創る
- ラザード・ジャパン・アセット・マネージメント
シニアヴァイスプレジデント・
ポートフォリオマネージャー - 福田 智美
- 東京センチュリー
代表取締役社長 - 馬場 高一
東京センチュリーの成長
- 福田
まず2023年度決算に対する印象からお話しすると、当期純利益は721億円と過去最高益を達成し、「中期経営計画2027」(以下、中計)の初年度として順調に進んでいることがわかる安心感のある内容だと思っています。特にレンタカー事業や航空機事業は旅客需要の回復に伴いベース収益が向上していますし、その他の事業分野も2023年度はすべて増益を達成していて事業全体として好調な印象を受けました。一方、2024年度の業績予想は当期純利益800億円と開示されており、中計最終年度(2027年度)の目標値1,000億円から逆算すると、2025~2027年度にかけて年間約70億円弱の増益ということになりますよね。市場は貴社ならもっと上の水準を目指せるのではないかと期待していると思いますが、馬場社長はこの目標値についてどのようにお考えでしょうか?
- 馬場
もちろん中計で示している数値がすべてではなく、投資家の皆さまからのご期待はもっと上のレベルであることも理解しています。さらに上を目指して成長していきたいと思っていますし、そのために各事業分野におけるTCXを軸とした取り組みを加速させているところです。成長にあたってのキードライバーとして、航空機リース子会社のAviation Capital Group(ACG)と米国IT機器リース子会社のCSI Leasing(CSI)が挙げられます。ACGについては、2023年度のROA(単体ベース)は1.2%程度とまだ低いですが、改善策として収益性の高い次世代機体の仕入れ・中古機体の売却をより活発化し、優良資産への入れ替えと、それに伴う売却益向上を図ることでROAを高めていく計画です。ACGのトレーディングチームの人員も拡充し、徐々に体制も整ってきています。CSIは、世界各国のマルチナショナル企業のお客さまのニーズを捕捉しながら成長してきており、2016年度の買収時の経常利益は26百万米ドルでしたが、2023年度は3.4倍の89百万米ドルの企業へと成長しました。CSIは米国の会社ですが、「米国発グローバル戦略」の一環として、最近では欧州をはじめ、インドや東南アジア地域への進出も積極的に行っており、潜在成長率の高いアジア市場の需要も取り込みながら、さらなる増益が期待できます。
- 福田
CSIは大きな損失計上もなく安定的に成長していますし、リース会社として相対的に高いROAを出せるビジネスモデルということもあり非常に期待している事業です。このような高い成長期待の持てる事業の情報開示の拡充、IRイベントの開催など、引き続き積極的に行っていただいて市場の期待値を一層高めてほしいと思います。
- 馬場
冒頭にいただいたご意見にも関連しますが、投資家の皆さまが当社の成長性に対して抱いている懸念の一つとして、中計期間中の利益計画達成に向けた「道筋」がわかりづらいということも要因だと思っています。そうした反省点を踏まえ、2024年5月公表のIR資料において事業分野ごとに、目標達成に必要な利益額と、そのために何を課題と捉え、今後どのような取り組みを行うのかを明示しました。きちんと“Process(過程)”と“Progress(進捗)”を市場に対して示していくことで、株主資本コストの低減を図り、成長の確実性・蓋然性を高め、その結果、期待値としてのPER上昇につながっていくものと考えています。
ポートフォリオ・トランスフォーメーションによる
投資の好循環サイクル
- 福田
貴社が昨年発表した中計の基本方針の一つである「ポートフォリオ・トランスフォーメーション(PX)」において、低収益事業からの撤退・高収益事業への再投資というサイクルは投資家が非常に期待している部分だと思いますが、中計2年目に入り、これからはPXの実行力、まさに“Progress”が求められるフェーズになってきたと思います。海外投資家から見ると、日本企業は一般的に買い物上手ではあると思うのですが、ダイベストメントが不得意という印象があり、ここに「変化できる企業」と「変化できない企業」の差が大きく表れてくるのではないでしょうか。貴社においても馬場社長が示された強いリーダーシップのもと、低収益事業のダイベストメントが加速していくことに投資家は期待していると考えられますので、実際に社内でどのような議論がなされているのか、そして従業員にもPXへの意識が浸透しているのかについても伺いたいです。
- 馬場
当社はこれまでアセットボリュームを拡大して、どちらかというと投資に比重を置いて成長してきた会社でしたが、格付や財務健全性も考慮すると、青天井にアセットボリュームを増やし続けるのではなく収益力を高め、会社を筋肉質にしていかなければならないという議論がありました。中計において「PX」を掲げているのはそのような背景です。中計公表から1年が経ち、実際に関係会社の持分比率を減らした事例も出てきましたので、社内においてもPXに対する意識が浸透してきています。PXの対象は事業の見直しのみではなく、例えば航空機や船舶といったアセットベースでもこれまで以上にアセットの回転を実施していく必要があると社内において伝えています。さらに役員に対しては、2024年5月に公表した役員報酬制度における株式報酬型ストックオプションの評価・支給基準として「TCXの取り組み」を採用し、一層PXも含めた中長期視点での変革への意識付けを行っています。従業員に対しては毎年、好事例を残した従業員を表彰する制度である「TC Award」において、2023年度から新たに「TCX賞」というカテゴリーを設けました。これは、PXも含め4つのX(PX・HRX・GX・DX)の戦略遂行に合致する取り組みを称賛するために新設し、PXの好事例が今後もどんどん出てくるものと期待しています。
- 福田
PXを遂行するのは一人ひとりの役職員であり、インセンティブを設けることは非常に重要であると感じます。馬場社長のリーダーシップのもと、ポートフォリオ改革が順調に進んでいる印象を受けた一方で、外部から貴社を評価する投資家としては、投資実行・撤退のハードルレートとなるROICスプレッドなどの定量基準がわかればさらに評価しやすくなると思っています。稼いだキャッシュを溜め込まず、より収益性の高い事業への投資に使って成長していくという好循環サイクルができていること、そして各事業の収益性をシビアに見る規律が働いているのだということを投資家が確認できるような開示もご検討いただきたいと思います。
- 馬場
ありがとうございます。投資家の皆さまのご意見を真摯に受け止め、開示改善をトップダウンで進めていくことは私の役割の一つです。福田さんのご意見も十分参考にさせていただき、しっかりと対応していきたいと思います。
東京センチュリーのPBR向上に必要な要素とは
- 福田
「資本コストや株価を意識した経営」の貴社の開示は高く評価しています。最も評価しているのが、自社の株主資本コストを投資家の皆さんへのヒアリングも行った上で“10%”と開示されている点で、市場の声を重視している企業であるという何よりの証だと思います。単純に算式に当てはめて算出すると投資家の考える想定値と乖離が生じるケースもありますので、そのギャップはきちんと埋めることができていると思います。
今後はPBRを高めるための実際の取り組みが一つひとつ見られる段階に入っていきますが、機関投資家が企業を見る上で重要視している指標はやはり「ROE」です。もちろん配当性向も重要なファクターではあるのですが、長期保有の機関投資家の視点としては、良い投資先があってもっと成長できるのであれば、配当性向に縛られずにキャッシュを成長投資に使ってもらいたいというのが本音です。成長投資によって稼ぐ力を高め、ROE水準を上げていくことが、結果的にPBR向上につながると思います。
- 馬場
お褒めのお言葉をいただき大変光栄です。高い評価をいただけたのも、市場の声に真摯に向き合ってきた成果であると思っています。PBRを高める上でROEが重要指標であるという点はその通りですし、「ROE=ROA×財務レバレッジ」であることからも、当社ではROAも重要指標と考えています。中計の財務目標値はROA(総資産純利益率)を1.4%、ROEを10%と掲げており、財務レバレッジは現在と大きく変わらない想定ですので、ROAの向上がROEに直接寄与するという観点からもROA向上は当社の企業価値向上においては必須事項です。先程のお話にも関連しますが、そのROA向上にはやはりPXを着実に進め、資産効率性と資産収益性を高めることに尽きると思っています。
そしてPBR向上には当然、PER(成長性)の議論も必要です。PERには「成長の持続性の確からしさ」も織り込まれていると思っており、これをもっと高めるためには福田さんがおっしゃったような、稼ぐ力を高めるための成長投資を行い、低収益事業からは撤退するなどキャッシュを効率よく回し、さらなる成長期待を醸成していくことが必要であると意識して経営の舵取りをしています。
- 福田
貴社は既に単なるリース会社という位置付けではありませんが、投資家から金融セクター内の企業との比較で投資対象として選ばれるのではなく、「東京センチュリーだからこそ投資したい」と思われるような存在になってほしいと思っています。強いリーダーシップのもと成長している企業の株価には「マネジメントプレミアム」が織り込まれているケースもあり、企業価値を高めていく上で、トップマネジメントの牽引力も重要な要素であると思います。
人的資本への投資
- 馬場
当社の金融・サービス・事業を軸としたビジネスモデルにおいて「人材力」は欠かせない要素であり、定期的に従業員エンゲージメント調査を実施してエンゲージメント指数を計測したり、調査の結果をもとに役員研修会においてディスカッションを行ったりと、近年はマネジメント同士で議論することが非常に増えています。
従前、人材は「Human Resource(人的資源)」と呼ばれていましたが、昨今では「Human Capital(人的資本)」と捉える企業が増えてきていると思います。当社においても従業員の育成・確保のためのお金をコストと考えるのではなく、成長投資として人材力をより強化していくため、専門性を磨くための研修の拡充に力を入れています。結果、当社における従業員一人当たりの研修時間・研修費用はいずれも右肩上がりとなっています。
- 福田
トップマネジメントが自ら人的資本の拡充に関与していることは、投資家が企業価値を評価する上で重要な点です。資産運用業界は人材の流動性が非常に高く、一つの会社で働き続けてもらうために、会社側が従業員に対して「価値」を提供しなければ人材を維持することが難しいと思っています。段々と日本全体で人材の流動性が高まっている傾向にあるので、これは一般企業においても同じような考え方になってきていますよね。
- 馬場
そうですね。人的資本を考える際には、従業員エンゲージメント・ウェルビーイングに対する視座が不可欠です。機関投資家の皆さんが投資先を吟味して投資するように、従業員にとっては自分自身が資本であり、その資本を「魅力ある企業」に投資したい(働きたい)というイメージに近いのではないかと思います。良い会社にはそうした人的資本がたくさん集まるので、企業価値に織り込まれることにつながるものと考えます。ただ、どの企業も苦労されているように、人的資本が企業価値向上に寄与していることを定量的に数値化することは簡単ではなく、一つひとつの取り組みが効果を発揮するまで相応の時間を要するため、焦らずに着実に取り組み、従業員エンゲージメント調査などで成果や進捗を確認していきたいと思っています。
この会社が持続的な成長を果たせるようにと長期目線での経営に常に取り組んでいますし、10年・20年後に振り返ったとき、皆さんが私の残した成果を評価してくださるように着実に歩んでいきたいと思います。
馬場 高一
東京センチュリーに期待すること
- 福田
長期保有の投資家として、短期的な成果を出すことに固執することなく、直面している課題をどう改善したいと考えていて、何に取り組んで、それがどのように企業価値向上へ寄与していくのかという長期的なプロセスを見て企業を評価しています。だからこそ短期では成果を出すのが難しいポートフォリオ改革、人への投資、ROEの向上など、長期にわたって投資するからこそ企業の“トランスフォーメーション”の変化率に着目していますし、それをしっかりと実行できるトップマネジメントのいらっしゃる企業を評価したいと考えています。これまでの対話の中で、馬場社長はリーダーシップを発揮して、従業員にも配慮しながら、前向きに会社を変えたいという気持ちをお持ちの方であると理解していますので、是非マネジメントプレミアムをさらに高め、貴社の企業価値向上につながることを期待しています。
- 馬場
さらに投資家の皆さまのご期待に添えるように努力を続けていきます。福田さんのおっしゃる通り、今、必死に取り組んでいる一つひとつのトランスフォーメーションは、恐らく短期的な利益につながらないものもあり、中長期的に果実を得ることができる取り組みも含まれていると思っています。その頃には当然、次の世代にバトンタッチしていると思いますが、私はこの会社が持続的な成長を果たせるようにと長期目線での経営に常に取り組んでいますし、10年・20年後に振り返ったとき、皆さんが私の残した成果を評価してくださるように着実に歩んでいきたいと思います。
「変化できる企業」と「変化できない企業」の差はこれから大きく表れると思います。
馬場社長の示されたリーダーシップのもと、低収益事業のダイベストメントをはじめ、投資の好循環サイクルが加速していくことを多くの機関投資家が期待しています。
福田 智美