INTEGRATED REPORT 2023
BACK NUMBERS

TRANSFORMATION
機関投資家
対談
代表取締役社長
投資家の皆さまとの建設的な対話を継続し、企業価値向上に資する施策へとつなげる
- アムンディ・ジャパン
ジャパン・エンゲージメント 戦略ヘッド - 浦 昌平
- 東京センチュリー
代表取締役社長 - 馬場 高一
中長期的な成長に向けて必要と感じる変革への期待と中期経営計画2027の基本方針や経営目標に対する印象
- 馬場
不確実性の高い時代においては、変化に対応するだけでなく、自ら変化を創造し、時代をリードしていく企業が求められます。当社は2023年度からスタートした「中期経営計画2027」において、自らを変革しようとする強い意志を「X」に込め、「TCX=TC Transformation」として公表しており、ポートフォリオ、人材・組織、グリーン、デジタルの4つの変革とESGの推進を基軸に稼ぐ力を高めていく考えです。
稼ぐ力を高めるためには収益力を培っていく必要がありますが、この収益力の源泉は資産の効率性を高めていくことに収斂されるものと考えています。現在のセグメント資産5.4兆円の利益率向上に注力し、効率性を高めていくことが1株当たり当期純利益(EPS)の拡大につながりますので、稼ぐ力を測る上でROA(総資産純利益率)を重要視しています。
- 浦
一番印象的だったのは、「変化を創造する」という言葉です。2020年度に7つの事業戦略の柱を軸として成長していくことを公表していましたが、中期経営計画2027では、規模の拡大を図るだけではなく、資本の効率性に焦点を当てる方向に変わった印象を受けました。変化を先取りして自ら変わっていくためには「稼ぐ力」というベースが必要であり、その「稼ぐ力」をつけるために効率を上げるという方針へとメッセージが変わったと私は受け止めています。事業セグメントごとのROA目標を開示するなど、財務目標を各事業分野へブレイクダウンして落とし込んだことにも、そのような狙いがあるのだと思っています。
具体的な戦略としては、成長事業へのポートフォリオの入れ替えを推進し、収益性が高いサービス・事業の比率を上げて資本効率を高めるという方針だと理解しています。一方、個別の事業戦略については、どのような基準で資産を入れ替えていくのか、サービス・事業へのシフト戦略をもう少し具体的にお話しいただけるとさらに説得力が高まると思います。
どのようなポートフォリオを最適と考え、変革していくのか中長期的に市場評価を高めていくために必要な改善点
- 馬場
5つの事業分野すべてが当社にとって重要であり、バランス良く成長させていくことが必要です。資産の入れ替えを推進し、ROAを一層高めていくことが各事業分野に課された使命であり、各事業分野の自主性と権限を明確にして自律的な対応を促し、実効性を高めることを目指しています。
各事業分野にはそれぞれ主力となる成長事業がありますが、低採算事業も抱えている状況です。場合によっては撤退や資産の圧縮も視野に入れ、回収した資金を収益性・将来性の高い事業に投下し、ポートフォリオの入れ替えを進めていく考えです。
今後期待する事業として、環境インフラ事業分野を新しいセグメントとして切り出しました。これまでは国内リース・スペシャルティをはじめ、各事業分野でそれぞれ環境関連事業を行っており、効率性に欠けるという課題がありました。環境インフラ事業分野には全社ベースで環境関連事業を担う司令塔になってほしいと思っており、全体最適の観点から実効性を一層高めていく狙いです。当社は10年以上前に国際事業を新たな事業分野として切り出し、約6,500億円のポートフォリオに育ててきた経験値がありますので、今回も成功に導いていきます。
- 浦
久しぶりに出てきた新しい事業セグメントには大いに期待しています。全体の資産ポートフォリオについてですが、コングロマリット・ディスカウントの観点で見て、全体として何をしている企業かがわからないということになるとディスカウントにつながります。そのため、外から事業戦略や規律が明確にわかることが一番大事です。
馬場社長の仰るように、ポートフォリオの見直しにおいて各事業分野に自発性と責任感を持たせて取り組んでもらうことは重要であると思います。それと同時に、マネジメント・取締役会の役割として全体のポートフォリオを俯瞰し、各事業の収益性や効率性を徹底して確認することも欠かせません。全体最適を図る上で規律に対する意識や、収益性を上げるという強い決意を頻繁に投資家とコミュニケーションしていただけると良いと思います。
貴社に対するESG評価は、グローバル水準と比較しても遜色ないと考えている一方で、市場評価についてはPBR1倍割れの状況です。足元の業績など財務的な要素が影響している側面もあると思いますが、貴社のESGストーリーが市場に必ずしも正確に伝わっていないことも一因ではないかと考えています。持続的に稼ぐ力があり、かつそれを成し遂げるためのESG戦略にも言及して市場と対話を重ねることで、PBRは回復してくると思います。
- 馬場
ご指摘の通りだと思います。前中期経営計画期間中はコロナ禍などの影響を受け、当社の事業ボラティリティが拡大しました。2022年度はロシア関連のエクスポージャーや営業投資有価証券にかかる損失処理を行い、グレート・リセットの年としました。業績のボラティリティを大きくしている要因を徐々に排除していき、市場から評価していただけるよう取り組んでいく必要があると強く思っています。
以前のようなCAGR(年平均成長率)水準に戻し、コンスタントに成長していく、その根拠として筋道の立ったESG経営を実践していることをステークホルダーの方々にご理解いただけるような開示にも不断に取り組みます。
競争優位性を生み出す東京センチュリー独自のビジネスモデルの強みや課題
- 馬場
私は、世の中のあらゆる企業には「変わらないもの」と「変わっていくもの」の2つの側面があると思っています。当社に当てはめて考えると、「変わらないもの」は半世紀以上にわたり、リース会社として「モノ」の目利き力を高め、お客さまに最も利便性の高い形でご利用いただくための付加価値を提供してきたということであり、当社の強みの源泉であると思っています。
一方で「変わっていくもの」は、デジタル社会の進展をはじめ、脱炭素社会への移行に伴う「サービス」内容やお客さまの「モノ」の利用方法です。例えば、「モノ」に付随するデータを使ったサービスや、温室効果ガスなどの排出抑制を目的とした「モノ」の利用方法は、ここ数年で大きく変化してきていると実感しています。今後は変化する社会やお客さまのニーズに応えるべく、ビジネスモデルを機動的に進化させていくことが必要です。そのためには当社だけではなく事業パートナーと一緒になって進めていく力が不可欠であり、これが当社独自の競争優位性となっていくのだという想いを持っています。
- 浦
単なる「モノ」価値の提供ではなく、利便性や利用価値を高めるべく、パートナーと一緒に社会課題解決に取り組んでいくというビジネスモデルは、東京センチュリー独自のものだと思っており評価しています。これまでのM&Aの代表事例であるACGやCSIのように、マイナー出資から時間をかけてパートナーシップを育み、互いの理解を深めながら最終的に連結子会社化したケースもあります。組むべきパートナーの選択、パートナーのニーズの洞察、そして互いの信頼関係を醸成するこの強みは、新たな事業領域を広げ、最終的には資産効率を上げることにもつながっていくと思います。世の中には色々なチャンスがありますので、東京センチュリーにはまだまだポテンシャルがあると期待しています。
一方で、パートナーシップの構築には時間がかかります。時代がどんどん変わっていく中で、継続・撤退の判断を機動的にしていかなければなりませんので、スピードを意識することと見極めに時間をかけることのバランスが大事になると思います。
課題という部分では、ガバナンスの体制について改善の余地があると思います。現状、経営会議や投資マネジメント委員会などの経営体制が機能し、かつ、各事業分野はそれぞれ専門性が高いマネジメントの方が執行を担っておられます。そのため、取締役会は全体の規律やポートフォリオのあり方等を議論・監督する場とし、その上で適切な取締役の人数や構成を考慮し、複数の事業ポートフォリオを持つ会社にふさわしい統治形態を検討しても良いのではないかと思います。これまでの対話を通じて馬場社長はガバナンス改革に関して意識が高い方と認識していますので、非常に期待しています。
人的資本経営で重視するポイント
- 馬場
経営陣と従業員は対等の関係にあると私は常に思っています。当社の経営理念に共鳴する方々に入社していただいて、当社の取り組んでいることが従業員の自己実現につながり成長を実感できる組織体にしていくことが必要です。
そのために、会社と従業員が同じベクトルを向いた一つのプラットフォームになっていかなければなりません。前中期経営計画において「多様な人材が活躍・融合するグローバル・コーポレート・グループになる」と掲げていましたが、それを本当の意味で実践していかなければならない時代が来たと思っています。今回の中期経営計画2027ではTCX=TCTransformationというビジョンを打ち出していますが、私たち自身が変化を創造する人材、「X」人材になるのだというメッセージを社内に出しています。役職員一人ひとりが挑戦心を持ち、可能性に溢れたX人材へと進化することを目指していきます。
- 浦
当社は中長期投資家であり、高い資本効率で持続的に成長していく企業に投資したいという考えがベースにありますが、その持続性を担保し、企業を運営していくための構成要素として人的資本は欠かせないと思っています。特に、会社で働く人が幸福感を感じられるかどうかがポイントではないでしょうか。それは報酬の水準かもしれませんし、スキルの習得かもしれませんし、人脈の獲得かもしれません。さまざまな要素があると思いますが、その会社で働くことに幸福感を持てる人材を増やしていくことが大事ではないかと考えています。
そういった意味で、さまざまな従業員がいる中で、バックグラウンドによらず能力に応じて登用される風土は良いと思いますし、報酬制度などの色々な仕組みがあること、その仕組みの結果、従業員の満足度が向上しているのかモニタリングすることも必要です。貴社では従業員意識調査の開示もありますが、そうした人的資本の取り組みを、外部に対して発信し続けることも企業価値向上に資すると思っています。

「稼ぐ力の強化」と「ESG戦略」を一層推進し、持続的な利益成長を実現します。そうした当社の成長ストーリーをステークホルダーの方々にご理解いただけるよう、今後も建設的な対話を行っていきます。
馬場 高一
今後の東京センチュリーに対する熱い想い
- 馬場
当社はさまざまなお客さまに支えていただいていますので、お客さまから評価されなければ成長できません。お客さまからどれだけ評価されるかということが当社の根幹で、そのためにアセットプロバイダー・サービスプロバイダーとなってパートナーシップ戦略をより強固なものにしていき、その結果、お客さまに評価していただいたものがチェーンのようにさまざまな出会いにつながっていくことが大事だと私は思っています。
そういう新たな出会いにつながれば、同じプラットフォームで業務に取り組む従業員の満足度も高まり、従業員一人ひとりが成功や成長を実感できて、次はこんなことをやりたいという気持ちが出てきます。そうしたチャレンジが実現されていくプラットフォームになれば、東京センチュリーは成長し、従業員の成長も実現されると思っています。そういう会社になれるように頑張ります。
- 浦
今回のコロナ禍や地政学リスクの顕在化は、貴社にとって良い気づきになったのではないかと思っています。単にアセットの拡大で成長していくだけではなく、高い資本効率で持続的に成長していきたいという思いが今回のメッセージには込められていると思いますし、今日の対談でその熱意を感じました。
今後は計画を実行に移すフェーズになってくると思いますので、とにかくここにこだわっているのだということを一つひとつのアクションで示してほしいです。ポテンシャルは十分にあると思います。これまで育んできたパートナーシップ戦略など東京センチュリーならではの良さを発揮し、ますます成長していく姿が見られることを期待しています。
高い資本効率による持続的成長への熱意を感じます。
今後もその決意を一つひとつのアクションや投資家との対話で示してほしいと思います。
浦 昌平