変化の激しい令和の時代において、さまざまなステークホルダーから選ばれる企業となるために、各企業は絶え間ない挑戦を続けています。単に変化に対応するだけではなく「自らを変革し、変化を創造する」ためには、人と組織の成長が不可欠です。多様な人材の個性を生かしながら、組織の成長に寄与するウェルビーイングとは──。
今回は、Ridgelinez株式会社でダイバーシティ&インクルージョン(以下、D&I)の推進をリードする執行役員Partnerの関優子さまと、2023年を『ウェルビーイング元年』と位置づけ「メンタープログラム」や「TC-Mee+」など独自の取り組みを進めている東京センチュリー 代表取締役社長の馬場高一さんの対談をお届けします。「X(トランスフォーメーション)」を軸に挑戦を続ける両社が『ウェルビーイング』を重視する理由に迫ります。
十人十色、それぞれが考えるウェルビーイング
──まずは、お二人が知り合ったきっかけや、お互いの印象について教えてください。
関さま
馬場さんと初めてお会いしたのは昨年のシンポジウムのテーブルディスカッションでした。その後、別件でご一緒した際に、従業員の方からの寄せ書きを社長室に飾っていると伺いました。従業員の皆さんを、すごく大切に思っていらっしゃるという印象を受けました。
関さんに初めてお会いしたときのことを今でも鮮明に覚えています。非常に鋭く当意即妙な受け答えをされていたのが印象的でした。日本にとどまらず、幅広くグローバルなフィールドでご活躍された経験からのお話など、いつも刺激をいただいています。
馬場
関さま
従業員の皆さんとの対話を大切にし、皆さんの声をしっかりと聞きながら一緒に経営を進めていくという馬場さんの姿勢は、私たちRidgelinezの「人起点」の変革アプローチと多くの共通点があると感じました。弊社は、変革の中核となる「人」を起点に、お客さまの変革に伴走することを重視している総合プロフェッショナルファームです。企業の変革をご支援する上で、最も大切なのは組織の中にいる「人」であるという考えに基づいています。
昨今では、ただ単に変化に対応するだけでは持続的な成長は見込めません。我々が従業員と一丸となって「自らを変革し、変化を創造する」ことが重要だということを日頃から発信しています。
馬場
──お二人の考えるウェルビーイングについて教えてください。
関さま
私が考えるウェルビーイングとは、まず身体的に、そして精神的に健康であると感じていること。その上で、生き生きと働けることが根幹にあります。だからこそ従業員の皆さんのウェルビーイングは、会社の取り組みの全てにおいて不可欠な要素であると感じています。
ウェルビーイングはWell(よい)とBeing(状態)からなる言葉ですが、仕事へのやりがいを感じることはもとより、従業員・その家族も含め理想的な健康状態が維持されているのか、良好な人間関係が構築できているのかなど、何がWell-being(ウェルビーイング)につながるのか、捉え方は人それぞれです。教科書のようにこれを行えばウェルビーイングが向上するという、確固たる答えがあるものではありません。
馬場
関さま
仰る通り、どのような状態を「よい」と感じるか、ウェルビーイングの捉え方は人それぞれ異なります。やりがいのある仕事に没頭することだという方もいらっしゃるかもしれないし、余暇の時間もバランスよくとって、家族との時間を大切にする中で実感するという方もいらっしゃると思います。
関さま「D&Iを推進していく中で、心身の健康、まさにウェルビーイングに目を向けることが大切だと改めて感じているところです」
──ウェルビーイングがどういう状態か模索しながら取り入れていくようなイメージでしょうか。
ウェルビーイングは非常に難しい概念なので、従業員の皆さんと一緒に考え、ゼロから自分たちの手で当社に合ったウェルビーイングを創っていく必要があると考えています。
馬場
関さま
組織全体をアクティベートするためには、従業員の皆さんと一緒に組織づくりをしていくことが不可欠であると私も感じています。私はD&I推進リーダーでもありますが、多様な人材がいるだけでは多様性があるとは言えず、皆さんが安心して発言し、活発に協働できるような環境を整えることも大切です。
馬場「当社は約4割がキャリア採用での入社です。さまざまなバックグラウンドを持つ多様な人材が集まり、新しい意見を取り入れていくことで、
新たな化学反応を生み出すという文化が少しずつ根付いてきているように感じます」
東京センチュリーのウェルビーイング元年
──東京センチュリーでは、2023年をウェルビーイング元年としたそうですね。どういった思いをお持ちだったのでしょうか。
「人的資本経営」が注目される中で、「Well-being(ウェルビーイング)」の視点を経営に取り入れていく必要性を感じました。特に職場における「働きやすさ、働きがい」は個人の幸せに直結するものであり、そのような環境づくりに取り組んでいくという決意表明として、年頭所感において、2023年をTCのWell-being(ウェルビーイング)元年にすることを宣言しました。
当時は何に対して皆さんが幸福感を感じるのか、正直なところ意気込み先行といった感じで、まだ明確な答えを持っていませんでしたが、このように宣言したことで、自分自身に対してもプレッシャーが掛かり、ウェルビーイングに対してしっかり向き合うきっかけになったと感じています。
馬場
──馬場さんに変化があったように、従業員の皆さんにも変化が起こり始めたのではないでしょうか。従業員の方へのアンケートによると「職場でウェルビーイングという言葉を耳にしたことはありますか?」という問いに対して、『ある』と回答した方は、86%という結果でした。
従業員アンケート結果①
社内での認知が広がってきていますね。最初はウェルビーイングに対する認知が低い状態だったこともあり、取り組みに対しての反応はあまりありませんでした。最近は徐々に「これはウェルビーイングにつながる施策ですね」との声も上がるようになってきました。
馬場
──一方で、「職場でウェルビーイングを実感する機会はありますか?」という問いに対して『ある』と回答されている方は56%と、先ほどの数値よりは下がっているようです。
従業員アンケート結果②
関さま
ウェルビーイングという言葉の認知度は高いけれども、実感する機会がないという答えが多いのは、比較的新しい概念だからだと思います。定義が広く人によって解釈も異なるため、普段から「私にとってのウェルビーイングとは何か?」を考えていなければ、いざ「ウェルビーイングを実感していますか?」と聞かれて、はっきり『はい』と答えるのは難しいことかもしれません。
ウェルビーイング元年を宣言した以上、責任がありますね。この数値を真摯に受け止め、ウェルビーイングを実感する機会を増やしていかなければなりません。先日実施した従業員エンゲージメント調査の結果を踏まえて、より具体的な意見を従業員から募るなど、人材・組織トランスフォーメーション(HRX)推進のための施策検討を進めているところです。
馬場
関さま
弊社では、従業員エンゲージメント調査の中にアクションテイキングという項目があります。これは従業員から寄せられた声を会社がきちんとアクションにつなげることができているかどうかを確認するものです。大切なのはスコアを受けとめた上で、企業側は「こういう施策を打っていきます」と伝えていくことです。伝えた内容をきちんとアクションに変え、従業員の皆さんに示していくことが、エンゲージメントやウェルビーイングの向上につながると信じています。
馬場「厳しい結果となりましたが、変に会社を慮っての回答ではなく、従業員の皆さんが正直な気持ちを答えてくれたことがうれしかったですね」
ウェルビーイングを向上させる企業の在り方
──社内におけるキャリア開発や成長機会に対する満足度も、ウェルビーイングにつながる部分がありそうです。調査では65%以上の方が『満足している」と回答していますが、この結果についてはどう思われますか?
会社と従業員は、選び・選ばれるという対等の関係だと思っています。最近はキャリア開発への意識が早い段階から備わっているため、自身が思い描いていたキャリアがこの会社で実現できるのかと絶えず考えている方が多いように感じます。会社はそのような自律的かつ自立的なキャリア設計を支えられる環境を整えて、提供していかなければなりません。
馬場
関さま
会社として個人の思いを尊重しつつ、キャリアを設計できる環境を整えることに加えて、経営側と従業員の両方からキャリアの実現に対してコミットすることが大切ですね。世の中が急速に変化する中で必要なスキルもどんどん変わっていくので、従業員側も環境は会社から与えられるものとして捉えるのではなく、どのような環境においても能力を発揮することができる自律・自立型人材になることが大切だと思います。
従業員インタビューからは「育休第一号で、当時はいろいろと手探り状態でした。皆さんが助けてくださって今があります。
このような環境に従業員側としても感謝しなければいけないと感じています」というコメントも届きました。
──企業風土や文化の醸成についても、ウェルビーイングの向上と関連がありそうですね。
関さま
「居場所がある」「自分たちはこの組織の一員である」という実感を得られることも、身体的・精神的な健康をもたらし、ウェルビーイングの向上につながっていくと思います。企業風土は従業員の皆さんと一緒に創っていくものですので、施策や情報の発信のみならず従業員の皆さんとの対話の機会を増やすことで、風土の醸成も活性化していくはずです。東京センチュリーさんでHRXを推進されているように、従業員をはじめとした「人」を変革の中核に置き、経営に取り組むことで企業価値が向上していくと考えています。
企業を支えているのはそこで働いている従業員の方たちです。皆さんの力がなければ会社の持続的な発展はありません。企業のパーパスと個人のパーパスが一致し、その企業に身を置くことで幸福感を得られるかどうか。つまり、「この企業なら自己実現や成功体験を蓄積できる」と感じていただくことがウェルビーイングにつながっていくと思います。そのような環境を提供し「選ばれる企業」であり続けられるよう、引き続き努力してまいります。
馬場
対談の詳細はぜひこちらの動画をご覧ください。
関 優子
Ridgelinez株式会社 執行役員Partner
Chief Diversity & Inclusion Officer
Sustainability Transformation Practice Leader
約20年にわたり、コンサルティング、自動車、Eコマース業界にて経営陣とともに経営戦略、組織開発、組織・風土改革、カスタマー・エクスペリエンス(CX)、エンプロイー・エクスペリエンス(EX)などのプロジェクトを手掛ける。日産自動車に加え、ブーズ・アレン・ハミルトンの米国本社に述べ15年在籍。帰国後、外資系コンサルティングファーム(経営企画担当執行役員)、アマゾン(コンフィデンシャルプロジェクト)を経て現職。
馬場 高一
東京センチュリー株式会社 代表取締役社長
東京大学法学部および米ペンシルベニア大学ロースクール卒業。
国内金融機関を経て、2014年入社。
経営企部門長やシステム部門長などを歴任し、2022年4月から現職。
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