近年、さまざまな場所で目にする機会が増えた「ダイバーシティ」というキーワード。企業経営におけるキーワードとしても語られることが多い言葉ですが、ニューノーマル時代において、あらためてこの言葉が持つ意味とはどのようなものでしょうか? 東京センチュリーが考えるダイバーシティの理想的あり方や、「個」を生かす働き方について、原真帆子 専務執行役員にお話を伺いました。
「総合職」や「一般職」の区分けは重要ではない?
―― 原さんが考える組織における理想的「ダイバーシティ」とはどのようなものでしょうか?
基本的には、人種や性別、年齢などの枠組み、あるいは多様なバックグラウンドから生まれるさまざまな価値観を持つ人たちの意見が、均一に受け止められるような組織、あるいは「場」をつくることだと考えています。
―― これまでの原さんのキャリアの中で、ダイバーシティの重要性を認識した出来事はありましたか?
私は新卒で日系銀行に就職したのですが、国際分野での専門性を究めていきたいと思っていたので、総合職ではなく"特定職"としての入社を希望しました。ただ、いざ入社してみると、総合職と特定職は仕事の違いや境界線がいまいち明確ではなく、それでいて特定職は総合職よりも低いポジション、というような社内認識だったんです。
「このままでは自分のやりたい仕事を突き詰められないな......」と悩み、3年目に総合職へコース転換しました。特定職から総合職へのコース転換は、私が社内第一号だったようです。
その後、外資系の銀行に転職し、そこでグローバルチームに所属しました。週1回、各国のメンバーとつないで電話会議を行っていたのですが、13ヵ国ものスタッフが同じ時間を共有し、同等に意見を交わす場に参加して、これまでいた環境との振り幅にとても驚いた記憶があります。
また男女の比率に偏りがないことにも衝撃を受けました。当時はいろいろな場に出ても、広い会議室に女性は私一人という状況が当たり前。「ダイバーシティ」という言葉がビジネスシーンに普及するはるか前の時代でしたが、「多様な価値観が交じり合う」ことの重要性を、転職を機に初めて感じたように思います。
―― 原さんは、イギリスやアメリカなど海外駐在の経験も豊富ですが、ダイバーシティを考える上で、日本と海外の一番の差はどのようなところだと思いますか?
私個人としては、お話したような経験もあり、「総合職」や「一般職」など、社員を職種で区分けするのはあまり好ましくないと考えています。そのような区分けが残っている限り、日本のダイバーシティはなかなか進んでいかない気もします。
アメリカなどでは「ジョブ・ディスクリプション」などが一般的ですが、日本でもそうしたものを活用し、個々人のスキルやレベルに応じた仕事を与えて、かつさまざまな人材がコンビネーションを組むことで、より多様性のある組織が実現できるのではないでしょうか。
アメリカの企業には事務仕事がメインであっても、その領域における自身の能力や知見を高めて、プロフェッショナルと認められている女性の人材はたくさんいます。だから私は、東京センチュリーで働く一般職の社員にも「事務分野のプロフェッショナルを目指して!」とよく言っているんです。
性別や職種の枠組みを取り払って、能力のある人がどんどん伸びていけるような、そんな仕組みづくりが日本には必要だと感じていますね。
―― 逆に日本企業がダイバーシティを実現する上で、日本ならではの強みや可能性などはあるのでしょうか?
例えば日本人は、0を1にするよりも、1を100にするような、既存の技術に磨きをかけて進化させる力に長けているとよく言われます。また、日本人は欧米と比べて、チーム単位で新しいものを生み出す力が強いようにも感じます。そうした"チーム力"は、ダイバーシティ時代においても日本企業の強みになると思いますし、個の力を高めながらも、チームとも協働できるような動き方が重要になってくると思います。
若い社員に"会社の可能性"を感じてもらいながら働いてもらいたい
―― 東京センチュリーでは新卒で入社する際、事業分野ごとに配属を希望することができ、スペシャルティ事業分野への配属を希望する新入社員も多いと聞いています。ダイバーシティ時代を生きる若い社員に期待することなどはありますか?
確かに新卒採用を行うと、スペシャルティ部門への配属を希望する人はとても多い印象です。スペシャルティ部門は、ほかの部門に比べて、キャリアパスをイメージしやすいのだと思います。
特に航空機分野は足元は新型コロナウイルスの影響を受けているものの、中長期の目線で見れば事業としての成長性が高く、クロスボーダーで活躍したい人に人気がある印象です。「再生可能エネルギー関係の仕事に就いて、日本のエネルギー政策に役立ちたい」「太陽光発電に代わるような新たなエネルギー資源開発の一翼を担いたい」といった、社会貢献意識を持って入社してくる人も多いですね。
一方、会社に入れば、自分のやりたい仕事や格好いい仕事ばかりができるとは限りません。書類を作成したり、データを分析したり、地道な仕事の積み重ねが最終的に大きな仕事につながっていく部分もあります。
そうした意味でも若い社員には「会社が今こういう方向に向かっているから、自分がこういう働きや貢献をすれば、この先自分のやりたい仕事にもつながっていくだろう」といった大きな展望を持って、働いてもらえたらうれしいですね。そして若い社員たちに会社の成長性や可能性を感じてもらえるよう、新しい事業を生み出したり、個々のキャリアをサポートしたりするのが、私たち管理職の責任だとも思っています。
―― 幅広い世代の交流もダイバーシティにつながる一環だと思いますが、ダイバーシティという観点で、東京センチュリーの若手社員がベテラン社員から学べることはありますか?
世代が上の社員は、人と人とのつながりを大切にしている人が多い気がします。学生時代の友だちとずっとつながっていたり、何かのプロジェクトで一緒だった人と連絡を取り続けていたり、社外にもいろいろなネットワークを持っている人が多いイメージですね。
そのようなネットワークがあると、例えば仕事でアプローチしたい企業があるとき電話1本で誰かが紹介してくれたり、仕事に役立ったりするようなことも多いです。私も社外の人とのつながりはとても大切にしています。同世代で活躍している友人たちは何人もいますが、皆よく勉強しているし、自分にはない視点を持っているので、たまに会って話をすると本当に刺激を受けます。
多様な価値観が出会い、混じり合うことで新たな発想が生まれる
―― 多様な価値観を認め合いながら、その中で"個"を生かしていくためには、どのような心構えが必要でしょうか?
私はよく「人間力を高める」と言っていますが、人間力を高めるには、さまざまな経験をして視野を広げることが必要です。欧米の仕事仲間と話していると、とても話題の幅が広いなと感じます。仕事の話はもちろん、本や映画の話もそうですし、食事中にはワインの話に花が咲くなど、とにかく引き出しが豊富です。幅広い知識に触れる中で、新たな発想が生まれてくることもありますし、それがビジネスにつながれば「個を生かして働く」ことにもつながっていくのだと思います。
発想というのは、人とのコミュニケーションの中から生まれてくるものです。そのためにも、どんどん外に出てほしいですし、特に物事に対する自分なりの"問い"をいつも持っておいてほしい。例えばプレゼン後に「何か質問はありますか?」と尋ねられたら、絶好のチャンスです。「うるさいくらい質問する力を鍛えてね」というのは、部下に対してもいつも伝えていることですね。
―― ニューノーマルの到来が叫ばれる中で、組織におけるダイバーシティを充実させることには、どのような意味があると思いますか?
今の話にもつながりますが、新たな発想は、均質な組織体からは生まれにくいものです。ニューノーマル時代に企業としての発想の豊かさ、独創性を追求するためにも、ダイバーシティは必要不可欠だと思います。
―― 最後に、一人ひとりが「個を生かして働く」理想的な企業のあり方について、原さんのお考えをお聞かせください。
所属する社員が「次のステップではこういうことにチャレンジしたい」「いずれはあの部署でこういう仕事をしたい」など、やりたい仕事を常に思い描ける場所であることが、企業の理想のあり方だと思っています。
社員たちにそのような希望を持ってもらうには、会社全体、または各部門がどのような戦略を持って事業を進めていくか、明確に打ち出す必要があります。個々の仕事が会社全体の中でどのような位置づけにあり、どのような意味を持つか、社員に認識してもらうことも重要です。
東京センチュリーで働く若手社員たちは、これからのニューノーマル時代を牽引していく存在です。当社では、他部署にスムーズに移れるようなキャリアチェンジの枠組みなどもつくりましたが、そのような会社の制度や仕組みを大いに活用して、自分のやりたいことを実現すると共に次の世代に希望をつなぐような役割を担ってほしいな、と思います。
原真帆子(はら・まほこ)
専務執行役員
2011年に東京センチュリーに入社。入社以来、社内外におけるさまざまな女性の活躍地位向上の取り組みに従事しており、2019年4月には、航空業界の非営利団体であるAdvancing Woman in Aviation Roundtable(AWAR)で日本における第一回「Trailblazer(先駆者)賞」を受賞。
※記事の内容、肩書などは掲載当時のものです
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