高齢者の"見守り"が今、大きな社会課題になっています。「地域で一人暮らしをする高齢の親が心配」という声が増えている一方、人手不足の介護業界では高齢者の安否確認のための訪問がままならないほど人員リソースが逼迫。また高齢者の一人暮らしにはさまざまなリスクがあるということで、なかなか住む部屋を見つけられない高齢者も増えています。
このような課題を解決するサービスとして、ヤマト運輸が展開しているのが「見守りサービスあんしんハローライトプラン」です。東京センチュリーが提供するIoT機器のサブスクリプションサービス「IoT SELECTION」のラインナップの一つ、IoT電球のHelloLightを活用したこのサービスについて、立ち上げを主導したヤマト運輸株式会社の川野智之さん、HelloLightの開発元であるハローライト株式会社代表取締役の鳥居暁さんに話を聞きました。
ヤマト運輸が高齢者の見守りサービスを始めた理由とは?
――ヤマト運輸が提供している「見守りサービスあんしんハローライトプラン」の概要を教えてください。
川野:「見守りサービスあんしんハローライトプラン」は、今使っている電球をIoT電球のHelloLightに交換するだけで始められる見守りサービスです。電球の設置から異常時のご家族への連絡、依頼時の代理訪問まで一貫して提供しており、場合によっては地域の窓口への連絡・通報なども行います。
――なぜ宅急便事業を展開するヤマト運輸がこのような見守りサービスを始められたのでしょうか?
川野:ヤマト運輸は、地域社会の健全で持続的な発展と、そこに暮らす人々のより安心・快適な生活の実現を目指しています。これまで培ってきた地域とのつながり、信頼関係を活かした、新たな地域のコミュニティ拠点「ネコサポステーション」を東京都多摩市、千葉県松戸市、神奈川県藤沢市にオープンし、家事や買い物サポートなどの「暮らしのサポートサービス」を提供することで、地域の皆さまの安心・快適な生活をサポートしています。
そのなかで、高齢者の孤独死や地域の見守りネットワークの弱体化といった課題に加え、介護業界の人手不足といった課題も重なり、より効果的に"見守り"ができる仕組みが必要だと感じていました。そこでヤマト運輸が全国に持つ拠点やセールスドライバーといった経営資源を活かした見守りサービスを展開できないかと考えたのが発案のきっかけです。
――見守りのための手段として、IoT電球HelloLightを活用することにしたのはなぜですか?
川野:見守りのための機器はさまざまありますが、ネット環境などのインフラ整備が必要であったり、設置や設定に手間がかかるものが大半でした。カメラ型など利用者のプライバシーに関わるものも多く、誰もが気軽に導入できる仕組みを探していたところ、IoT電球HelloLightの存在を知りました。トイレや洗面所などの電球を取り替えるだけで導入でき、特別な専用機器や面倒な設定は必要ない。そのシンプルさが素晴らしいと思いました。これなら高齢者の心理的負担も少なく、理想とする見守りサービスを実現できると感じたのです。
――HelloLightの開発元である鳥居さんに伺います。そもそもHelloLightはどのような意図で開発されたのでしょうか。
鳥居:私が最初にIoT電球を開発したのは、屋内の位置情報を把握するためでした。ところがある日、たまたま弊社の社員から、あるケアマネージャーさんの話を聞いたんです。その方は、担当する高齢者の安否確認のための電話連絡が、本来の業務に支障をきたすほど大きな負担になっているとのことでした。その話を聞いて、IoT電球で見守りも兼ねることができれば、介護関係者の負担を減らせると思ったんです。
そこから見守りに特化したIoT電球の開発を始め、2015年に試作品を発表しました。介護事業者からは「電球なら設置の説明がしやすい」「高齢者も受け入れやすい」と非常に好評をいただいたのを覚えています。ただ最初は電球以外にも装置が必要で、コスト面の問題もありました。その後、3年かけて電球とSIMの一体化に成功し、現在の形のHelloLightを2018年11月に発表しました。
――介護業界だけでなく、不動産業界からも大きな反響があったそうですね。
鳥居:そうなんです。不動産業界が直面している問題の一つに、孤独死への対応というものがあります。一人暮らしの高齢者が倒れてしまうと気付けず、場合によっては亡くなってしまうことがあります。さらに発見が遅れてしまうと、遺品整理や、特に賃貸物件の場合、ご家族やオーナーの方々に清掃などの負担がかかったり、場合によっては次の入居者が入りづらくなってしまいます。そのためにオーナー側が一人暮らしの高齢者に物件を貸すことを敬遠し、高齢の方々が賃貸物件を借りるハードルが高くなってしまっているなどの問題も存在します。
HelloLightを活用した見守りを実現できれば、このような問題も解決できるかもしれません。安心・安全なまちづくりにもつながります。こうしたことから、不動産業界や高齢者の住宅支援を行う自治体からも、たくさんのお問い合わせをいただいています。
地域に密着し続けてきたからこそ、提供可能なサービス
――そんなHelloLightを活用した見守りサービスをつくりあげるうえで、ヤマト運輸がとくにこだわったのはどのような点ですか?
川野:どんなに素晴らしいサービスであっても、実際にお客さまに使っていただかないことには意味がありません。そのため、値段はできる限り抑えつつ、誰もが気軽に安心して利用できるサービスにしたいと考えました。
このサービスは弊社の経営資源を活用するため、大きなコストをかけることなく月額980円(税込1,078円)での提供を実現しました。またHelloLight自体もサブスクリプションの形で導入できるため、新しい事業にチャレンジできたこともありがたかったです。
――実際にサービスを利用しているお客さまからは、どのような反響がありますか?
川野:トイレや洗面所など、日常でよく使う場所の電球を交換するだけで利用できる。そんな従来の見守りサービスにはない手軽さは、非常に喜ばれています。設置から異常検知の管理、何かあったときの連絡、代理訪問までをパッケージにして月額980円(税込1,078円)という料金体系も「家計に負担がなくありがたい」との声をいただいています。「日頃から地域で顔馴染みになっているヤマトさんが提供するサービスだから安心」といった、非常にうれしいお言葉も多いですね。
鳥居:「遠方に住む一人暮らしの親が心配」という、高齢の親御さんを持つお子さまからの申し込みも多いのかなと思います。子どもさんご自身がIoT電球を買って親に送っても、高齢の親御さんは「使い方がわからない」とそのまま放置してしまうようなケースをよく耳にします。また何かあったときに、離れた場所にいる子どもさんがすぐに駆けつけることも難しかったりする。設置から代理訪問まで、すべてをワンストップでヤマト運輸さんが担ってくれるこのサービスは、利用者にとっても非常にありがたく、安心感に寄与しているのではないでしょうか。
テクノロジーの活用と民間企業の参加が、これからの高齢者サポートには必要不可欠
――高齢者の見守りは自治体にとっても大きな課題です。自治体側からの反響や期待の声なども何かありましたか?
川野: 現在、日本全国の自治体から問い合わせや受注をいただいております。特に東京都日野市では、早い段階からHelloLightの費用補助を行なっており、その中では弊社の見守りサービスも補助対象になっています。こうした費用補助や支援を検討する動きが今、全国の自治体で広がっているようです。
全国で約700万人いるといわれる独居高齢者を、自治体だけで支えることはリソース的にも無理があります。地域の関係機関や介護事業者による見守りネットワークなどもありますが、どこも人手不足で、見守る側も高齢化している。今後はHelloLightのような最新テクノロジーをより活用し、民間企業も参加しながら、より効果的な見守りの仕組みをつくっていく必要があるのではないでしょうか。
――今後の「見守りサービスあんしんハローライトプラン」と、HelloLightそれぞれの展望についてお聞かせください。
川野:「見守りサービスあんしんハローライトプラン」は、さまざまな可能性があるサービスだと手応えを感じているので、いずれは事業としてさらに成長させていきたいです。今後も引き続き、ヤマト運輸が培ってきた経営資源を活用し、地域の皆さまに寄り添ったサービスを展開しながら、地域社会に貢献していきたいと考えています。
鳥居:HelloLightは人感センサーと組み合わせて倉庫やガレージ、ビニールハウスなどの防犯にも活用できます。世界仕様で設計されているので、84か国(2021 年7月時点)で利用することも可能です。ヤマト運輸さんの見守りサービスをよりクオリティの高いものにするためにも、品質向上やシステム改善に注力していきつつ、段階的に見守り以外の分野への進出や、さらなる海外展開なども進めていけたらと思います。
――「IoT SELECTION」を運営する東京センチュリーへの期待などあればお聞かせください。
鳥居:IoT SELECTIONを通じて、HelloLightをサブスクリプションモデルで提供するようになり、ヤマト運輸さんをはじめ、より多くの事業者やユーザーに活用いただけているように思います。
私どもとしては、日本のさまざまな企業とオープンイノベーションを行いながら、HelloLightを世の中にさらに広めていけたらと考えていますので、多くの関係企業とさまざまなネットワークをもつ東京センチュリーさんには、ぜひそんな"橋渡し"の部分のサポートをこれからもお願いできたらうれしいです。
・ヤマト運輸「⾒守りサービスあんしんハローライトプラン」の詳細はこちらから
https://nekosapo-order2.kuronekoyamato.co.jp/mimamori.html
・IoT SELECTION「HelloLight」の詳細はこちらから
https://iotselection.tcplats.com/products/detail/0da4080d-7fec-11ea-92d7-77d5c869b44a
川野智之(かわの・ともゆき)
ヤマト運輸株式会社 リテール事業本部 多摩主管支店 営業担当マネージャー
2006年、セールスドライバーとしてヤマト運輸に入社。2016年から稲城営業所、2018年からネコサポ多摩ニュータウン営業所の支店長を務めた後、現職。地域のコミュニティ拠点「ネコサポステーション」による生活支援サービスを推進するとともに、HelloLightを活用した見守りサービスの設計から立ち上げ、運営までを担っている。
鳥居暁(とりい・あかつき)
ハローライト株式会社 代表取締役
1998年、富士通株式会社にシステムエンジニアとして入社。信販基幹システムの開発標準化などに携わる。2003年、ソフトバンクグループに営業として入社。回線の代理店販路や新事業の企画に携わる。2006年に革新的なモノ創りを目的としてボクシーズ株式会社を設立。2019年にハローライト株式会社を設立。
※記事の内容、肩書などは掲載当時のものです
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