
2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、各自治体はさまざまな対策を講じています。環境省から「脱炭素先行地域」に選定された北九州市では、2025年までに、市内全ての公共施設の再生可能エネルギー100%電力化へ向けて、さまざまな取り組みを進めています。北九州市の脱炭素実現に向けて、重要な役割を担う「新電力会社」と「第三者所有モデル」とは? 今回は自治体の脱炭素支援で日々奮闘している、株式会社北九州パワーの富高社長と東京センチュリー福岡営業部の石井さんに話を伺いました。

日明(ひあがり)工場にて:東京センチュリー 石井さん(左)と北九州パワー 富高社長(右)
「第三者所有モデル」のメリットは、イニシャルコストが不要なことと、適正な管理による長寿命化でサーキュラーエコノミーに貢献できること
――まずは北九州パワーさまの事業内容について教えてください。
富高さま:北九州市では東日本大震災以降、電力不足への対策が盛んに議論されるようになりました。2015年には電力自由化が解禁されましたが、市内の公共施設および地元企業に対して安価で安定的な電力を供給するために北九州パワーは設立されました。
当社は、地産地消の電力供給体制を確立しており、市内に3カ所ある焼却工場(※1)でごみを焼却処理する際に発生する熱エネルギーを利用するサーマルリサイクル(※2)によって発電した電力を、北九州市内の公共施設全てと地域の中小企業に供給しています。
(※1)焼却工場:新門司工場、日明工場、皇后崎工場
(※2)サーマルリサイクル:廃棄物を燃やすときに発生する「熱エネルギー」を回収して利用するリサイクル方法
――――東京センチュリーは、北九州パワーの事業展開をどのようにサポートしているのでしょうか?
石井:北九州パワーさまは電力供給だけではなく、太陽光発電や空調設備の導入など、脱炭素に資するさまざまなサービスを提供していることも大きな特徴です。そのサービスにおいて、当社は「第三者所有モデル」による設備の保有と最適な環境をお届けするためにIoTなどを活用した機器の保守・点検・維持管理業務、ファイナンス面のサポートなどを行っています。モノの所有者が自治体ではなく、第三者である当社になることから「第三者所有モデル」と呼ばれています。

富高さま:北九州市は市内全ての公共施設の再エネ100%電力化を2025年度までの目標に掲げており、当社はその目標を達成するための役割を担っています。東京センチュリーとの連携により、第三者所有モデルを活用したLED照明や高効率空調などの省エネ機器や太陽光発電設備の導入を進めています。

北九州エコタウンセンター:LED照明や高効率空調などの省エネ機器を設置
――「第三者所有モデル」は自治体にとってどのようなメリットがあるのでしょうか?
富高さま:自治体にとっての一番のメリットはイニシャルコストがかからないことだと思います。行政は前もって予算を策定して全額積み立てた上で、ようやく事業を開始することができます。しかし、この第三者所有モデルを活用することで、イニシャルコストが不要となりますので、スピード感ある意思決定が可能となります。
それに加えて、長寿命化というメリットもあります。学校の空調設備などのメンテナンスは、これまでは先生方が行っていました。このメンテナンスをプロに委ねることで、適正な管理による長寿命化が期待できます。処分・入れ替え・リサイクルなども安心してお任せすることができます。
石井:第三者が所有することで適正な維持管理を行うことができ、機器を長くご使用いただく。できる限り「モノを捨てない」サーキュラーエコノミーを目指す北九州市さまの理念にも寄り添った仕組みとなっており、各自治体の手を煩わせないような形でサービスを提供しています。

富高社長「モノの長寿命化につながりリサイクルもできる。結果として最終的なコストも抑えることができます。第三者モデルを活用することで、サーキュラーエコノミーにもつながっています」
――両社の連携はどのようにスタートしたのでしょうか?
富高さま:コロナ禍がきっかけでした。非常事態宣言を経て、市内の小学校では夏休み期間の登校が決定されたのですが、小学校には空調設備が設置されていないという課題がありました。そこで、酷暑対策として空調設備の導入が協議され、「第三者所有モデル」が検討の俎上に上がりました。実現に当たっては、リースやファイナンスにたけた民間企業の協力が不可欠ということで、現在に至ります。

脱炭素プラスで自治体の脱炭素支援だけではなくプラスαの課題も解決する
――脱炭素に向けて課題を抱える自治体も少なくありません。「第三者所有モデル」はその課題にどう貢献できると思いますか?
富高さま:脱炭素は非常に重要な課題ですが、脱炭素への取り組みはすぐに効果が表れるものではありません。税金が投入される以上、市民の皆さまに喜んでいただけるよう結果も求められます。私たちが進める「電力+サービス」の提供は脱炭素という「将来の課題」だけではなく、「今の課題」も同時に解決するという「脱炭素プラスα」を目指しています。
例えば、空調事業では、高効率空調設備を導入することで省エネを実現することに加えて、小中学校の酷暑問題の解決にもつながっています。太陽光事業においても、CO2削減効果はもちろんのこと、緊急時の避難所となる施設に太陽光と蓄電池をセットで設置することで、脱炭素を実現しながら災害時の電源の確保も行っています。自治体が今抱えている課題の解決を進めていくことで、結果として脱炭素も進んでいきます。
石井:「空調設備だけを更新したい」「災害への備えから、避難所となる施設に蓄電システムも導入したい」「公用車のEV化を検討している」など、脱炭素の課題解決のための手段や考え方は自治体によって異なります。第三者所有モデルは、私たち東京センチュリーがこれまでの事業展開で培った多くのパートナー企業との連携により、各自治体のニーズに合わせて柔軟に対応することができます。

石井「脱炭素だけではなく、差し迫った行政の課題も一緒に解決していけるよう支援していきたいと考えています」
自治体新電力+第三者所有モデルで、地産地消の電力供給を実現
――ありがとうございました。最後にこれからの意気込みをお願いします。
富高さま:どのような設備で発電されても電気そのものに違いはないため、電力は価格以外に差別化できる要素がありません。しかし、例えば「電力と空調設備」「電力と太陽光設備」など、電力にサービスを付加することで、明確な違いを生み出すことができます。この点こそが北九州パワーの最大の強みです。第三者所有モデル自体は珍しいものではありませんが、自治体新電力で第三者所有モデルを採用している企業体は、おそらく私たちが全国で最初の事例ではないでしょうか。
北九州市は政令指定都市だからこそ実現できたという側面は確かにあります。とはいえ小規模な自治体は実現不可能、というわけでは決してありません。自治体同士が手を取り合って進める共同事業のような形も十分に考えられます。近隣の自治体にも積極的にお声がけしながら、ゆくゆくは九州全域にわたって地産地消の電力供給体制を確立し、脱炭素を実現できるよう事業を発展させてまいります。
石井:自治体の皆さまは、脱炭素に向けた課題感は持ちながらも、具体的にどう動き出せばいいのかとためらっているケースは少なくありません。省エネ・創エネ・蓄エネなどと、目指すゴールも考え方も多岐にわたります。顕在する課題を拾い上げ、同時に潜在的な課題もくみ取りながら、当事者意識を持って寄り添い、伴走することで、九州全体の脱炭素実現に向けて、少しでも貢献していきたいと考えております。


富高 紳夫(とみたか・のぶお)さま
株式会社北九州パワー 代表取締役社長
1987年北九州市役所入職。財政・変革局にて納税関連業務に携わり、その後、港湾空港局、環境局、産業経済局などで業務に従事。2020年より環境局長を務め、2022年4月に同社の代表取締役社長に就任。

石井 達也(いしい・たつや)
東京センチュリー株式会社 営業第二部門 福岡営業部
2018年に新卒で入社。首都圏営業部でのエリア営業を経て2年前に福岡営業部へ異動。自治体などのカーボンニュートラル実現に向けた課題に対し伴走型支援を行っている。九州全域から全国へ取り組みを推進する。
※記事の内容、肩書きは掲載当時のものです。
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