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【AI活用事例】「AI-Ready」から「AI-Powered」へ
――「AIを“育てる”」業務変革への挑戦

2025年12月23日

多方面における普及が急速に進むAI。前回の記事では、東京センチュリーの生成AI環境基盤を構築したIT推進部 黒木さん、橋本さん、dX戦略部 佐藤さんによる対談をお届けしました。

連載第2弾となる本記事では、生成AI環境の基盤が整った次の一手に注目します。

 

2025年4月にIT推進部内に新設されたデジタル推進グループの戦略をIT推進部の瓜田さんと和久さんに、そして同年8月にリリースされた「取引時確認問い合わせAI」などAIの具体的な業務活用について事務統括部の坂井さんにお話を伺いました。

img01.jpg(左から)事務統括部 坂井さん、IT推進部 デジタル推進グループ 和久さん、瓜田さん

AI時代の扉を開く
東京センチュリーの挑戦

―これまでの生成AI活用について教えてください。

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和久

2024年度はIT推進部とdX戦略部によって生成AIを安全に利用できる環境が整備されました。その基盤の上で、「まずは使ってみる」を合言葉に全社的な活用支援が進められ、個人での平均利用率が6割程度に達しました。(詳細は前回の記事を参照)一方で利用が広がったからこそ、「業務に生かすにはどうすればいいか」という次の課題が明確になっています。この「使ってみる」フェーズから「実際の業務に落とし込む」フェーズへの移行が2025年度の課題です。

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瓜田

今年度はこうした課題を解消し、データとAI活用をより戦略的に進めるため、2025年4月に専門組織として「デジタル推進グループ」を新設しました。当グループの役割は大きく2つあります。1つ目は、AIをはじめとする先端技術の活用による、競争力強化と企業価値の向上。2つ目は、テクノロジーを駆使した事務改革の推進です。事務統括部など各事業部と連携しながら、専門人材の育成や従業員のAIリテラシー向上にも取り組み、全社的な変革(DX)をけん引する中核組織を目指します。

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瓜田「デジタル変革の推進には、変化を恐れずAIとの協働を楽しむマインドセットと、

常に新しい知識を学ぶ意欲が重要だと思います。」

 

―2025年8月には取引時確認問い合わせAIがリリースされました。その背景を教えてください。

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和久

生成AIの活用拡大に向けて関係各部に業務課題をヒアリングしたところ、多くの部署で「問い合わせ対応」に時間をかけている実態が浮き彫りになりました。中でも、事務統括部が担当する「取引時確認」に関する業務はルールが複雑で件数も非常に多く、特に業務負荷が集中している領域でした。この業務は課題が明確であり、自動化による導入効果が最も大きいと判断し、事務統括部と共同でプロジェクトをスタートさせることにしました。

事務統括部では営業部店などから「取引時確認」に関する問い合わせが日々大量に寄せられます。しかし案件の背景によって判断が異なるイレギュラーなケースも多く、詳細なマニュアルも整備し切れませんでした。結果として、ベテラン社員に依存する属人化が進んでおり、これが長年の課題でした。この「ベテラン社員の頭の中にあるノウハウ」をAIに学習させ、いつでも正確に回答を得られる仕組みが必要でした。

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坂井

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瓜田

「取引時確認」のような業務は社内のクローズドな情報に基づき、回答することが絶対条件です。インターネット上の広範な情報を参照するGeminiとは異なり、NotebookLMは私たちが指定したデータだけを情報源として回答を生成します。この特性が本業務に最適であると判断し、採用を決定しました。ただし、回答の精度を高めるためには、参照する情報源も見直す必要がありました。

AIを“使う”から“育てる”へ―
変革の物語が始まる

―取引時確認問い合わせAIの開発は、いつから、どのように進めたのですか?

2025年6月から検討を始めました。最初に直面した課題は「正確性」です。従来「正確性を担保する」ことを求められてきた私たちが、ハルシネーションのリスクを抱えるAIに問い合わせ対応を任せてよいのか、大きな葛藤がありました。そのため「正確性をどこまで追求すべきか」というゴール設定は非常に難しく、デジタル推進グループと事務統括部で議論を重ねながら開発を進めました。

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坂井

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和久

開発過程では、AIにさまざまな質問を投げかけ、期待する回答が得られなかった場合には、「どんな情報を追加すれば正しい回答につながるか」を検討し、1件ずつインプットを重ねていくなど地道な対応をしましたね。

取り組み開始当初は、NotebookLMの精度が未知数であったこともあり、部内で利用ができれば十分だと考えていました。しかし、開発が進むにつれてより多くの人に活用してもらうとともに、AIを実際に利用することで従業員のAIリテラシーの向上に寄与できればと考えるようになりました。そして、全社展開が見えてきた段階で「完璧なAIをリリースする」のではなく、「ユーザーの皆さんと一緒に使用しながらAIを育てていく」方針へ転換しました。

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坂井

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瓜田

リリースはあくまでスタートラインです。AIの育成は、新入社員の成長プロセスに似ています。どんなに優秀な人材でも、最初から完璧な対応は難しいからです。入社当初は自社特有のルールや文化などを知りませんが、先輩や上司との対話を通じて学び、成長していきます。AIも同様で、データという“経験”を積み重ねながら、出力を修正し、私たちにとって最適な形に進化していくのです。



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坂井「取引時確認問い合わせAIを全社展開できるようになったことは、うれしい誤算でした。」

 

―AIの導入によって、業務や働き方はどう変化していくと考えていますか。

問い合わせ対応が自動化されることで、事務統括部は問い合わせ対応の負担が軽減され、営業部店は即座に回答を得られるため、お客さまとのコミュニケーションを迅速に行うことができます。そうして生まれた時間や労力を、企画立案や課題解決といったより付加価値の高い業務に充てることができ、組織全体の生産性向上につながると考えています。

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坂井

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和久

企画の検討段階で生成AIと“壁打ち”を行うことで、アウトプットの質や精度を高めることも可能です。その過程で新たな気付きが生まれたり、新規事業のアイデアにつながったりするケースも出てきています。

こうした効果を社内に広く共有するため、隔週で「デジタル活用推進会」を開催しています。AIツールなどの基本的な使い方から各個人の事例まで、さまざまな情報を共有し、デジタル人材の育成と全社的なAIリテラシーの向上を目指しています。また、問い合わせ対応ツールは、事務統括部のように多くのマニュアルを所管する部門に特に適しているため、同様の業務を持つ他部署や関係会社にも声をかけ、私たちのナレッジを共有しながら伴走支援を行っています。

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坂井

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2025年7月に行われたデジタル活用推進会にNotebookLMを全社向けに紹介。

AIリテラシーを高め
「AI-Ready」から「AI-Powered」へ

―現在、当社の生成AI活用はどのフェーズにありますか。

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和久

経団連が公表している「AIの活用に関する経団連の考え方」に照らすと、当社は5段階中の2段目に当たる「AI-Ready化の初期段階」に位置します。これは、一部の部門や業務でAIを活用できているスモールスタートのフェーズです。今年度は、AIを基幹システムなど複数のシステムや分散しているデータと連携させていくことを目指しています。そうすることで、例えば引き合いや投資相談を受けた際、AIが過去の実績や企業情報などを基に与信判断を行い、人手による個別審査を省略できるようになります。これは社内的にもニーズが高い領域であり、私たちとしても早期に実現したいと考えています。

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AI-Readyな企業(【出展】一般社団法人 日本経済団体連合会:AIの活用に関する経団連の考え方

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和久「最終的にはAIにやり方を聞いて人間が処理するのではなく、

人間が手続きを知らなくてもAIが代わりに代行してくれる世界を目指したいですね。」

 

―「AI-Ready」から「AI-Powered」に進化するためには、何が必要でしょうか。

まず「AIは魔法の杖ではない」という前提を理解し、その能力と限界を正しく見極めることが大切だと思います。一人ひとりが生成AIの知識や活用スキルを正しく身に付けることができれば、取引時確認問い合わせAIのように、社内に眠る膨大なデータやノウハウを簡単に活用できる仕組みを整えることができ、私たちが描く理想の姿に近づくことができると思います。

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坂井

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瓜田

AIリテラシーを高めるため、2025年4月から社内教育の一環として、従業員向けの情報発信を始めました。多くの従業員が関心を寄せており、AIが万能ではないという前提も含め、実務と知識の両面から理解を深めることが重要だと考えています。

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和久

これからのAI時代において鍵となるのは「言語化力」だと思います。あらゆる業務でAIが活用され、アイデア出しや壁打ちも可能になりますが、その際にはAIとの対話が不可欠です。課題や考えを的確に言葉で伝えられるほど、AIのアウトプットの質も向上します。Geminiにおけるプロンプトと同様に、“伝える力”が成果を左右する時代になっていくと感じています。

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坂井「AIを使いこなすリテラシーと、AIが活用しやすいように整理された業務プロセス。

この両輪がそろうことで、組織全体が「AI-Powered」に、向かっていけると期待しています。」

部門を超えて、共につくる
AI活用の新たなステージへ

―今後の展望を教えてください。

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和久

生成AIによる問い合わせ対応は、AIに情報を蓄積し、問い合わせ内容に応じて最適な回答を生成する仕組みです。つまり、AIに学習させるデータを変えることで、他の業務課題にも応用できるポテンシャルを持っています。現在、事務統括部以外の部署とも連携し始め、年内に新たなサービスを社内向けにリリースすることを目標に協議を進めています。業務面での協働を通じて、部門間や従業員同士のつながりもより強固にしていきたいと考えています。

取引時確認問い合わせAIは、全社的なAI活用に向けた“ファーストステップ”です。生成AIの進化に伴い、今後は多様な方向性が見えてくるはずです。営業現場を事務面からサポートすることで営業現場の苦労を理解できる事務統括部であり続け、現場がより付加価値の高い業務に集中できる環境を整えていきたいと思っています。

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坂井

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瓜田

現在、AIエージェントをはじめとする業務支援ツールとしてのAI活用が急速に進んでいます。AIが、社内外の多くのデータを認識し、さらに視覚や操作といった多角的かつ自律的な機能を持つことで、私たちの労働環境を変革することができると考えています。それにより反復的な定型業務から解放され、創造性や高度な判断力を要する業務に注力することが可能になります。IT推進部は、その実現のために、業界をリードする戦略的な次の一手を構想し実行することで、この変革をリードしていきます。

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瓜田 高志 さん(うりた・たかし)

IT推進部 デジタル推進グループ 次長

2015年中途入社。システム開発やITコンサルティング会社など、複数の企業で経験を積む。入社後は、リース業務基幹システムの開発・保守をはじめ、PMO、システム企画、関係会社のシステム開発支援など幅広いプロジェクトに参画。

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和久 俊作 さん(わく・しゅんさく)

IT推進部 デジタル推進グループ マネージャー

2025年中途入社。官公庁や製造業など、多様な業界でシステムの企画から運用までを幅広く担当。デジタル推進グループの発足と同時期に入社し、生成AIをはじめとした先端技術の導入・活用を推進。

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坂井 健人 さん(さかい・たけと)

事務統括部 

2013年中途入社。前職では情報機器の導入・運用・保守を担当。入社後はキッティングやデータ消去、情報機器の販売に携わる。2022年にキャリアチャレンジ制度で事務統括部へ異動し、DX推進やデジタル活用推進を担当。

 

※記事の内容、肩書きは掲載当時のものです。































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